どん底だった男が12年前に戻った理由
✦ 三天戦争編をひと目で
放送情報と原作の記録
2026年10月2日、東京リベンジャーズ 三天戦争編が放送を始めた。今回はLIDENFILMSが制作を担当して、ディズニープラスで、中国本土を除く世界に独占で公開される。
原作は和久井健の漫画で、単行本31巻、累計発行部数が8000万部を超えた。2021年にはオリコン年間マンガ売上ランキングで3位に入り、推定販売数は2498万1486部だった。
話の骨組みは単純だ。どん底にいたフリーターのタケミチが、最悪の不良組織の抗争に巻き込まれて命を落とした恋人ヒナタを救おうと、12年前の中学時代にタイムリープするのだ。この一行は、実は私たちみんなが一度はしてみた想像でもある。
あのとき、あの言葉を言わなかったら、あのときの選択を違えていたら。夜に布団の中でそんなことを考えたことがあるなら、この作品がどうしてこんなに売れたのか、わかる気がする。
心理学では、こういう考えに名前がついている。反事実的思考、英語でcounterfactual thinkingだ。すでに起きたことについて別の結果を思い浮かべる考え、つまり「そうなっていたかもしれないこと」についての考えをいう。
タケミチはこれを頭の中で終わらせず、時間をさかのぼって実際にやってしまう人物だ。
後悔はどう生まれるのか
✦ 上方と下方、後悔と安堵
反事実的思考の二つの方向
反事実的思考には方向が二つある。現実より良い結果を思い浮かべる上方的反事実的思考は後悔を生み、現実より悪い結果を思い浮かべる下方的反事実的思考は安堵感を与える。
「この程度で良かった」が下方で、「あのときああしていたら、今ごろ変わっていたのに」が上方だ。
心理学者ニール・ローズが1997年に心理学紀要(Psychological Bulletin)に書いた論文によると、こうした考えは否定的な感情が湧いたときに自動的にオンになる。そして、不幸の原因である可能性が高い地点に注目する傾向がある。
実際の結果と比べると感情はより苦くなるけれど、その代わり原因を推論させて、次に何を変えるべきかを教えてくれる。ローズはこの思考の純効果が有益だとまとめた。
2008年にKai Epstudeとローズが出した機能理論は、さらに一歩進む。反事実的思考は、行動を調節してパフォーマンスを引き上げる役割として説明するのがいちばんよく合う、というのだ。
上方的反事実的思考が、成功に役立つ行動をしようという意図を高めるという研究結果もある。後悔は痛い感情だけれど、次の行動を選ばせる信号なのだ。
タケミチはこの理論を体で表した人物だ
✦ 理論とタケミチの対応表
この記事の解釈
タケミチはこう読める。彼は上方的反事実的思考を想像で終わらせず、行動に移す人だ。後悔が教える「次はこうしよう」を、タイムリープという装置で文字どおり実現してくれるからだ。
後悔が行動を生む過程をいちばん極端に見せてくれる人物と言える。
面白いのは、彼が優秀だから戻るわけではないという点だ。大人になったタケミチは、自分の人生を台無しにしたものの前から逃げてきた人だ。
シーズン1が放送されていた2021年のアニメニュースネットワークのフォーラムには、この作品が「過去に戻ってうまく解決する話ではなく、一生背中にのしかかってきたトラウマと向き合う話」だというファンの書き込みが上がったこともある。
タケミチを動かすのはケンカの腕ではなく、今度は逃げないという決意だ。
三天戦争編の公式あらすじも同じ流れだ。東京卍會と天竺の抗争が凄惨な結末で終わったあと、三つのチームが覇権を争う三天時代になった世界で、最後のリベンジが始まる。
一度変えたら話が終わるわけではなく、タケミチはまた同じ問いの前に立つことになる。
しなかったことのほうが長く残る
✦ しなかったことの後悔
ギロビッチとメドベックが1995年にまとめた時間差
後悔にも種類がある。
1995年にトーマス・ギロビッチとビクトリア・メドベックは心理学評論(Psychological Review)に載せた論文で、短期的には「行動したこと」のほうが大きな後悔を生むけれど、長期的には「行動しなかったこと」のほうがつらいとまとめた。
行動への後悔は、「それでも学んだことがある」のような心理的な整理作業をしやすいけれど、しなかったことへの後悔は、そういう意味を見つけにくいから長く残るというのだ。
この観点で見ると、大人になったタケミチの姿が理解できる。大きな失敗をして、どん底にいるのではなく、やるべき瞬間にやらなかった時間が積み重なって、どん底にいる人だからだ。彼が戻ってやることも、大したことじゃない。
逃げていた瞬間に逃げないこと、それだけだ。
後悔に飲み込まれると
✦ 後悔が薬になるときと毒になるとき
研究が報告した内容
かといって、後悔がいいことばかりではない。ローズは2005年のイリノイ大学の報道で、軽い後悔は新しい行動を引き出す力になるけれど、ひどい後悔は精神疾患の第一歩になりうると語った。同じ後悔を繰り返してかみしめる反芻も問題だ。
Susan Nolen-Hoeksemaは1991年の研究で、反芻する反応の仕方が抑うつ感の持続期間に影響すると報告した。
ローズらが2009年に全国代表標本で調べた研究では、後悔が抑うつ、不安と関連していて、後悔に反復的な考えが加わった反復的後悔は、全体的な心理的苦痛と強く結びついていた。
まとめると、後悔は薬だけれど、同じ場面を巻き戻すだけだと毒になる。タケミチもだから面白い人物だ。この作品で彼は、後悔をかみしめるだけにとどまらず、毎回何かをしようと動くからだ。その代償がどれほど大きくても。
私たちはタイムリープできないから
✦ 後悔を役に立てる方法
同じ後悔、違う終わり
タイムリープができない私たちに残された方法は、反事実的思考の役立て方を、次の行動に見つけることだ。機能理論が語る後悔の価値は、次の行動を選ぶことにある。
「あのときああしていたら」で終わってしまうと、場面を巻き戻すだけになり、「次はこうしよう」につながれば、後悔が役に立つ。そういう意味では、今日できる小さな行動一つが、12年前に戻るより現実的なリベンジかもしれない。
三天戦争編は、いま放送が始まったばかりだ。タケミチが今回はどんな選択をするのか、その後悔がどこへ向かうのか、一緒に見守ろう。
今回はここまでにするよ。また会おう。
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